2018.05.25|コラム
桐(キリ)はゴマノハグサ科の落葉高木で、英語ではpaulownia(ポローニア)と呼ばれる。
成長はきわめて早く、幹は高さ10mにも達する。材は、比重0.31と日本の樹木の中で最も軽く、 色白で木肌は美しく、狂いが少ない。 更に、湿度の通過性や熱伝導率がきわめて小さい特性を持っているため、用途としてはタンスをもって第一とするが、刀剣、掛け軸など高級貴重品を収納する箱のほか、琴、琵琶等の楽器、下駄等の日用品に至るまで幅広く使用される。また屑を焼いて懐炉灰に用いたほか、樹皮は染料、葉は除虫用に使われた。
なお、中国では、桐は鳳凰が親しむお目出度い樹として崇拝され、我が国においても、菊とともに皇室の紋章や神紋にも用いるなど高貴に扱われている。五三の桐、五七の桐、唐桐などが紋所の図柄として有名で、その変形も多い。
木材図鑑 ⇒ 桐
桐の原産は中国大陸で、我が国には飛鳥時代の頃に渡来して各地で植栽されるようになった。
北海道南部から鹿児島に至るまで生育しているが、特に、岩手県の南部桐、福島県の会津桐、岡山県から広島県東部にかけての備後桐が著名な生産地であった。
近年、国内での生産量は減少し、中国を筆頭に台湾やアメリカ、ブラジル、パラグアイなどからも輸入されている。
総桐箪笥 梅雨時に桐タンスの引出しが堅くなることがありますが、 これは、湿度が高くなると桐材が膨張して気密性が高まり、 タンス内に湿気が侵入するのを防いでいるからです。 また逆に、乾燥時には木が収縮して蒸れないように通気性を良くします。 同時に、板の面も木目(きめ)が粗密になって湿気の通過を自然にコントロールします。
この様に、桐はまるで呼吸しているかのように乾湿調整を行い、 タンス内を一定の快適な状態に保つ働きをしています。
だから、古くからタンスの他にも高級な美術工芸品を収める箱に桐が使われるなど、 桐自体も高級品として扱われ、湿度の高い日本ならではの桐文化が発達しました。
昔、農家では女の子が生まれると庭に桐の苗木を二本植え、その子が成人してお嫁入りするときに桐を伐採し、その材料で桐タンスや長持を作ってもらい嫁いだと云います。
桐は家具材に適すると同時に成長が早く、15~20年経つと成木となり家具材として使えるように育つことから、こうした風習が根付いたようです。
火事のときに桐タンスは黒焦げになったが、中の着物は無事だったという話が語り継がれています。 これには、桐がもつ二つの特性で実証することができます。
一つは、桐は熱伝導率が極めて低く着火点が高いので、表面が焦げても中まで火がまわるのに時間がかかるからである。 金庫の内部が桐で出来ているのはそのためで、外側の鉄板が炎で真っ赤に焼けても、 内部が桐で出来ていれば断熱効果にも優れるので重要書類や紙幣などが自然発火しにくいのである。
二つ目は、他の木材に比べ吸水性に優れるので消火の水を直に吸収してしまいます。 たくさんの水を含むと当然燃え難くなり、同時に木が膨張するので引出しや扉の隙間をふさぎ、 タンスの内部に消化の水が入るのを防ぎ、大切なモノを守ることが出来ます。
昔から、火事になったら桐タンスに水をかけろと云われたのもこうしたことからで、桐という素材を知り尽くした先人達の知恵が伝わります。
但し、どちらにしてもボヤ程度の火事の場合のことで、家が全焼するような火災であれば桐タンスでも当然焼けてしまいます。
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